同棲希望の女性と話をはぐらかしてお泊まり
橋の真ん中頃の欄干に身を寄せながら、私は時計を眺めては行き交う人々を眺めている。
交際クラブで知り合って、何度もデートをして関係が深くなった女性と待ち合わせをしているのである。
こちらに小走りでやってくる彼女
橋の上はタクシーやバス、車などが通っていたが、暑さが増してきたためにシャツ一枚で歩いている人であっても、汗を流してそれをハンカチで拭っている。
バッグを抱えて帰りを急ぐ OL らしき女性たちの行き来は絶えることがない。
私は今夜彼女が生活しているマンションに行き、それからは二人で何をしようかということを考えているのだ。
「お待たせしました」こちらが考えるよりも早く彼女は私の方へ小走りで近づいてきた。
「ここから駅の方に歩いて行くのはちょっと勘弁してもらいたいから、タクシーに乗って行こう」
ということで、ちょうど橋の上を通過していたタクシーが近づいてきたので、手を上げてそれに乗り込んだ。
通り過ぎていく道の両端を眺めていたら、タクシーは目的地にあっという間にたどり着いた。
私はドアを動かしながら運転手さんに運賃を渡すと、彼女は「あっちの方に歩いて行きましょう、その方が近いから」
彼女が指し示した方へ曲がっていくと、片側は向こうまで道路照明のポールが林のように続いていてその突き当りの照明が届かなくて薄暗くなっているところに、彼女のマンションがあった。
女性のマンションに移動する
道路は薄暗くなっているが、マンションからはちらほらと明かりがこぼれだしていて、マンションに住んでいる人たちの生活を想像することができた。
彼女はドアを開けて中に入り、振り返ってこちらを向きながら靴を脱いだので、私も同じように靴を脱いで女性の部屋に上がり込む。
交際クラブに登録しているとホテルで女性と会う機会が多かったので、女性の部屋は妙に新鮮だった。
「着替えてきます。私だけ申し訳ありませんが、やっぱり家の中では外行きの格好をし続けたくないので」と彼女はスリッパを私に差し出した後「椅子に座って待っておいてください」と言って、着替えるために別の部屋に移動した。
ずっと立っておくわけにはいかないので、座るための椅子を探そうと玄関から移動すると、綺麗でもなく汚れているわけでもないフローリングのリビングルームだった。
部屋着に着替えた彼女が「やっぱり室内は熱気がこもっていますね」と言って、扇風機とエアコンの電源をつけた。
扇風機の正面に立って「今ここが一番涼しいわ」と言って、身体全体で風を受け止めると、着心地を重視しているサイズの合っていない部屋着が揺れる
私がいるのにリラックスしている姿を見て「やっぱり一人は気楽そうだな。それほど結婚に魅力を感じていないのかい?」というふうに尋ねると「両親は結構うるさいんですけど、他人と一緒に結婚生活するなんて想像できないわ、申し訳ないけど諦めてもらうしかないですね」と苦笑いを浮かべた。
「そんなことよりも、日が落ちてきましたから、今日はここに泊まっていってもいいんじゃないんですか? 私は別に構いませんよ・・・今夜は一緒に寝ないでお話ししてください」
部屋の中はしんと静まり返り、マンションの外から車のクラクションの音が聞こえた。
彼女は本当に寝ないで話し込むつもりで、テーブルの上を拭いてからお茶を入れる。
エアコンと扇風機がきいてきたようで、今まで感じていた暑さは解消されて、涼しくなる。
リモコンを持った彼女がスイッチを押すと、関西弁の漫談が静かだった空間を賑やかにした。
リモコンから手を離した彼女は二人分の湯のみにお茶を入れて、それをお盆に乗せテーブルに運んでくるが、私のすぐ隣の椅子に座った。
「はい、お茶です。 熱すぎると嫌だから最初に氷を入れてぬるめにしましたけど、大丈夫ですよね?」
「ああ、ありがとう」と言って湯のみを取った。
未来ある彼女から同棲のお願いをされる
彼女がしばらくテレビのバカ騒ぎを見ていたが「あの」と突然私の腕に体を密着させて「就職できたら、私と同棲してくれませんか?」と言ってきた。
驚いて「君とはかなり年齢が離れているだろう? こんな男と一緒になっても仕方ないじゃないか」ということを言ったら「自分には資格がないって言うんですか?」と言ったきり黙り込んだ。
テレビから聞こえ出した若手社員の間で流行っている歌に意識が逸れそうになったので、私は真剣に彼女と向き合おうと顔を見ようとしたが、彼女の方がそれを避けるため急に立ち上がってベランダに向かうために窓を開けた。
「私がもうちょっと若かったら・・・」と後ろから彼女の体を抱きしめたら「年齢・・・何歳でしたっけ?」
落ち着いてきたのか、こちらへ振り向いてくれた彼女の可愛らしい顔を見ると、私はなぜか安心した。
自分の年齢を言ってみると「それじゃあ、もう一人のお父さんにはなってもらえそうですね」と言ってこちらを向いて熱烈なアプローチを開始する。
ここにきて、まさに交際クラブらしくなってきた。
服が完全にずれかけていたので、このまま外で始まるのはまずいと思い、急いで彼女と一緒に部屋の中に入ってカーテンを閉めた。